邂逅録 02  弟 ■ 高木と名乗る男と出会って、数週間が過ぎ様としていた 切欠は既に彼が与えてくれている 決心は、決して格好の良い物では無いが、つい先週の両親の醜悪な争いで思い出した苦い記憶と辛い思い出が後押しをしてくれた そして彼女の瞳には、あの時に灯ってから一度も衰えていない光が ならば、何故直ぐにでも高木の元へ行かなかったのか? それは自分の導となる物への不安だった 傍から見れば、その不安は当然の話だろう 齢15の少女にとって頼る者も相談出来る者も居ない中で、未知の世界へ自身の決断で飛び込まねばならぬ上に 道の導がどんな物なのかは、経験の無い世界で想像など付く訳が無い 先の見えぬ道を、昼とも夜とも判らぬ道を、導も無く? その惑いを、誰が責められよう 喩え大の大人と言えども、直面すれば容易に避ける事が出来ない不安と同じなのだから だからと言って、それから逃げて解決するのか? 飛び込む以外に方法が無いと判っているにも係わらず? それでは、嫌悪しているあの2人と同じでは無いか 予め決定されている運命として、全てを甘んじて享じているあの2人と 私は、運命論者では無いのだ 変えねばならぬのだ、その手で、その心で、その想いで。己の道を 私に出来る事は唯一つ。自分の信ずる道を、自ら歩み続ける事だけなのだから それでも それでもなのだ 惑いは、呪縛となって私の心を縛り続け、鈍らせる その決心が、まるで薄っぺらなあふやな物であると決め付け、嘲笑うが如く ふと此処に来て気付く では今迄の私は、一体何だったのだ? 決して違うと思っていたのに 虚勢を張って他を否定し、自分は違うと傲慢に振舞い、弱い人間だと他人を冷笑する不遜さ そんな軽蔑すべき人間達とは しかし、違わなかった。忌み嫌ったそんな人種と全く同じだったのだ それが私なのだ 私の心は、こんなに弱く醜い物だったのか こんなにも薄っぺらで軽いものだったのか 私は、こんなにも…ちっぽけな人間だったのか 彼女の瞳から、悔しさで涙が零れ落ちていく 何て私は、無力なのだろう たった一つの勇気さえ振り絞れないのか? だが、そんな彼女の傍に天使が舞い降りる きっと、純粋なるが故に繊細な、彼女の心を優しく守る為に ■ 本当の私の姿と心を知っていても、そんな自分を救ってくれた人が居た 『本当の決心』は、その人が決めてくれた 惑う私の背を押してくれた それは私にとって一番暖かな、そして優しさに満ちた声 あの子の写真 笑っているあの子が、言ってくれた様な気がした ――――――― 『お姉ちゃん、頑張って』と 心の奥底から溢れてくる、想いと涙 溢れて止まらない、想いと涙 久しく忘れていた、感情 死して尚も、この私を好いてくれている、見守ってくれている、あの子 この涙は、あの子への感謝 そして、この想いをより純粋な物へと磨き上げて行く、聖なる水 私の想いが、今、唯一つへと昇華して行く