笑顔で出掛けるP達と、その姿を笑顔で見送る彼女 やっと小鳥にとって、少し落ち着ける時間が訪れた 「ふぅ…。さあてと、何から片付けよっかなぁ」 言いながら何とは無く窓の外の景色に向いていく彼女の顔 その動作が、ふと止まる 「…早い物よね。…もう何年になるかなぁ…」 小さな呟きの様な言葉が、小鳥の口から零れた ■ 昔の記憶が蘇って来る 今でも、お母さんの事は良く覚えている 何時も優しい笑顔で、何時も私の話を嬉しそうに聞いてくれて、それこそ文字通りの華の様な人 でも、その笑顔は「あの日の最後の言葉」と共に見れなくなった 「小鳥。 貴女には…私の夢を引きずって……欲しくない……の…。だから…だから……自分…の道を…………あゆ…ん……で………」 そうとだけ言って、優しく撫でてくれていたお母さんの手が、私の頭から力無く落ちる お母さんは、最後の言葉と共にこの世から去って行ったのだ その時は不思議と涙は出なかった 代わりに、胸の中に大きな…とても大きな穴がポッカリと空いたけれども その夜、布団に入ると、お母さんが居なくなって初めて涙が零れた 何故だか判らない が、唯々、その心に空いた穴を埋めたい一心で 葬儀の後、近くに身寄りも無かった私は、お母さんの遠縁に当たる親戚の家で暮らす事と為った 勿論、子供に恵まれ無かったその叔父夫婦は、私の事を喜んで迎えてくれる 新しい暮らしを初めて、数ヶ月が過ぎた頃だったろうか? 一人の男性が、叔父夫婦の元を尋ねて来た。好奇心に駆られて、私は2人と会う様子を物陰からそっと覗く 真剣な表情で、その男性は叔父夫婦に平身低頭していた とても真剣で、とても真摯で、そしてとても強い想いを見せて 今になって思えば、何故叔父夫婦が彼の申し出を承諾したのかは何と無く想像は付く あの時の彼の台詞に、私とその男性に浅からぬ縁が有る事を感じ取れたからだ だから、最初はかなり戸惑っていた2人が、その人の姿勢に終に心を動かされてしまったのだろう 最も、決め手となったその台詞が有ったからの事なのだろうけれども 「私には、あの子を育ててやらねば、守ってやらねばならぬ義務が有るのです  そして、それは同時にあの子の母親を幸せにしてやれなかった、この私の贖罪でも有るのです  だから……、喩えこの身に変えても、今度こそは彼女の代わりにあの子を幸せにしてやらねばなりません  彼女の最後の手紙に書かれていた  『若し、勝手なこの私を許して頂けるのなら…貴方から、あの子に幸せを与えてやって下さい』…私は、その言葉に応えねばならんのですっ!  絶対破れぬ誓いと共に、この私自身の手でっ!」 自分の手を見つめ心の慟哭の様な台詞を言い切ると、それっきり黙ったまま、静かに彼は2人に頭を下げ続けた 叔父夫婦が彼に声を掛けるまで これが、その男性 ―――― 高木社長との出会いだった それからは、社長がずっと私の事を見て来てくれた 私の事を、本当の自分の子供の様に 暖かさで包まれる毎日。悲しかった事、辛かった事は記憶の奥底へと積もっていく ただ、お母さんの笑顔だけは、何時も鮮明な姿を残し続けて そんな私に、母を亡くした時以来の『2つ目の或る切欠』が再び訪れる それは、無事に高校も卒業し春から短大へ行く事も決まり、一人暮らしの準備に追われている時に起こった この先の私の進む道に働きかける、いや、寧ろ道を決めるとでも言う出来事が ■ アパートの扉をノックする音 「いいかね?」 扉越しに、社長の声が聞こえた 手を離せない私は、どうぞ、と声だけで彼のノックに応える 次いでカチャリと鳴るドアノブ 「どうかね?準備は」 「ふぅ…。 後は、細かい物が殆どですね」 「そうか」 「ええ」 部屋を見渡す私を、静かに見守る様に見つめる 「本当に、済まなかった。親代わりを名乗り出たは良いが、なかなかそれらしい事もしてやれなくて」 「何を言ってるんですか。 高校と来て、大学まで。生活だって、何不自由する事無く暮らせて来たのに」 「はっはっはっ。 大事な愛娘から、そう言って貰えると嬉しい限りだよ」 高木の台詞に、クスリと小さく笑う小鳥 小鳥の笑顔を見ながら、ふと、こんな台詞を彼が続けて行った 「やはり…彼女の娘だな。面影が良く似ている…」 「えっ?」 突然、亡くなったお母さんの話を切り出されて私は驚いた。何故、又こんな時にお母さんの話など…? 小鳥の驚きを他所に、高木は言葉を続けて行く 「君は、彼女の…母親の事を、まだ覚えているかね?」 「え、ええ…」 心の中でも何時も思っていた。いつか、お母さん見たいに素敵な人になりたいな・・・って だから…、だから忘れられない、お母さんの笑顔は。あんな風に笑える様になりたいから 「では、アイドルだった事は?」 『お母さんは、皆に歌を聞かせてあげてたの。 今、貴女に歌ってあげてる様に』 そんな台詞が記憶の奥でチラリと揺れる 暫しの間を置いて、私は黙って頷く 「そうか…」 何かを諮詢する様に、高木が一度顔を伏せる 再び彼がその顔を上げた時、瞳にはある決意の様な物が見えた 「ならば、率直に聞こう。 君は……アイドルをやって見る気は無いかね?」 唐突な問い掛けだった 一瞬、何を言われたか理解出来ず、少し呆けた様な返答をしてしまう 「アイ…ドル…? わたし…が?」 「そうだ。君が、だ」 軽い混乱が収まり切らない私に、社長の言葉は尚も続いていく 私の知らなかったお母さんの事と私の事を 「昔、私はね、君の…君のお母さんの事をプロデュースしていた。 丁度、今の君の歳くらいに出会ってな」 その事実が、私を更に混乱へと落とし込んで行く ( ど…どういう事!? 社長がお母さんの事を…!? ) 「無論、君が生まれる前の話だが。 君のお母さんも…彼女も、明るくて素敵な人だったよ。特に笑顔が」 ( あ…。この人は、お母さんの笑ってる顔…知ってるんだ……。 ) 「才能も十分に有った  若しかすると、トップの座まで目指せたかも知れない程に。だからデビューしても、その才には翳りが無かったよ  だが、とても残念な事に、ある切欠が彼女の行く末を決めてしまった」 ( え? そ、それはどう言う…事? ま、まさか… ) 「…そう、君の父との出会いだ」 ガンっ!と頭を殴られた様な衝撃だった。 苦しい。 お母さんが? 私の? 頭がクラクラする。 社長が? お母さんをプロデュースしてて? 今度は私? 助けて。 判らない。 お父さん? 誰? 苦しい。 助けて… 「大丈夫かね?」 気が付くと、高木の腕の中に居た 彼の顔が心配そうに小鳥を見つめている ショックで崩れ掛けそうになった彼女を、高木が受け止めてくれていたのだ 「あ、い…いえ…。す…済みません。 ちょっと、どう受け止めて良いか…」 「すまんな、ちと性急だったかも知れん。許してくれたまえ。  だが、君の笑顔を見る度に彼女の事を思い出してしまって、早く伝えねば如何と思ってな  …君の母の夢の為にも…」 最後のその一言だけは、ボソリと呟く様な言い方だった 「どうする、この先を。 又、改めて話すかね?」 私は彼の腕の中から何とか身を起こすと、首を振った 知りたかったから どんな事が有ったのか本当の事を。私の事を。そして、彼が最後に呟いた言葉の意味を 「…有難う…。 ならば…話そう」 今度は、ユックリと、しかしハッキリと私に伝える様に話し出して行く 「君の父と母が出会ったのは、彼女がCランクに辿り付いてそれ程経たない頃だった  無論、私は猛反対したよ。彼女の先にはまだまだ道が有るのだ、それを横から潰されたのでは収まりが付かない  だがね…本当に彼女達は真剣だった。私との絆以上に彼との絆が強かったのだ  嫉妬したくなる位にね。  最も男女の仲だ、それは当たり前の話なのだろうけど。」 ( ああ、お父さん、そんなにお母さんの事を… ) 「数度、彼とも会ったよ。勿論、確かに彼女が言ってた通りその態度には嘘偽りは無かった  『彼女がアイドルだからじゃ無い。彼女だから…彼女だから愛してるんです』とな  ならば、もう私からの言葉は無い  後は彼女がアイドルの道を進むのを止めるまで、一緒に歩いてやるだけだ」 目を細め当時を思い出す様な表情 「当然、暫くすると君の事を身篭った話を聞かされる」 ( 私…を? ) 「だが、悲劇はそこで起こった。彼女が身篭った事を聞いた日に、彼は…君の父は事故でこの世を去ってしまったのだ」 ( !! お、お父さんが…!? ) 『ねえ、お母さん。 お父さん、何処に居るのかなあ?』 『ん? そうねぇ…チョッと遠い所かな? でも、きっと…私たちの事見守ってくれてるわ』 『ふーん…。じゃあ、小鳥が大きくなったら、小鳥、お父さんのトコに行ける?』 私の言葉に、少し困って寂しそうに笑った顔。あの時には判らなかった、その笑顔 これが、その笑顔の理由だった 「彼女の失意は相当な物だったよ  だが私も若さゆえか、それを健気にも隠して続きを歩もうとする彼女に気が付かなくてな  とある日の仕事で、彼女に怪我をさせてしまった  当たり前だろう、彼女にとっては忘れ様も無い大切な人を失いメンタル面で大きな不調を抱えて居るのに、仕事なぞ集中して出来ようものか  無論想像の通り、その結果、彼女はアイドルとしては歩み続けられ無くなる様になってしまってな」 彼が一呼吸置く 「怪我が癒えて程無く、彼女は私の許を去っていく  私の申し出も虚しく『有難う御座いました』と別れの際に、その唯一言だけを残してな  彼女と別れた後に、暫くして風の便りで君が生まれた事を知ったよ。女手一人で、君を生み育てて行く事を決めたんだと  後は君も良く知っている姿…それが彼女の…君の母の姿だ」 お母さんの姿を社長が語ってくれた後、暫く静寂が部屋を包む 私には言葉が無かったから。どう言って良いか、話す言葉が見付からなかったから その代わりに、頬を伝わる一粒の涙が私の代弁をしてくれた 私は、お父さんとお母さんの確かな絆の証拠なんだ、2人の確かな愛が有った証なんだ…って 私の沈黙と涙を見つめながら、静寂を静かに破って再び社長が話し始めた 「君のお母さんの事は、私も非常に心苦しく思っていた  無論、それは彼女の才能に惚れ込んでだけでの話では無い  私の持論はね、喩えその係わりが僅か数ページの事であっても、プロデュースと言うのはその娘の人生の一部に係わる事だとも思っているのだ  アイドルとして…一人の女の子としても、私の持てる全て使って幸せにしてやる義務が有るのだとな  しかし彼女は、愛する男性を失い、アイドルとしての道を失い、謂わば道半ばにして自ら幸せから降りる事を選んでしまった  確かに彼女は君の父と歩む道を選び、私はそれを認めた  が、それは彼女が彼と進む事で幸せが見えたからだ。アイドルとしての頂点に立つよりもその幸せが勝っていたからなのだ  傍から見れば『最後は、己自身の選択だろう? 他人の決める事では無い』と思うかもしれない  だがね、それは違うのだよ  最後の最後まで、降りる者が、その先も幸せに進める様に私はしなければいけなかったのだ。別れの時に彼女を強引に引き止めてでも  だって、そうだろう? 私は彼女を幸せにして送り出してやってはいないでは無いか  彼が去って、再び何とかアイドルの道を歩もうと頑張り始めた時に、残った道も絶たれてしまった彼女には、一体どれ程の絶望が訪れただろうか  残ったアイドルとしての幸せ。それは、やはり成功を意味するのに  一度でもアイドルとしての道を歩むなら、夢見る頂点への想い。その想いを叶えてやる努力をする事が、私に課せられたもう一つの義務なのに  それを…果さなければならぬ私の義務を…………私は、果せなかったのだ」 社長の拳が何時の間にか握り締められていた その色が、とても…とても白かった事を今でも覚えている 「私の独り善がりな願いなのかも知れない。君の夢や希望も有るだろう  だが、敢えてそれを曲げてでも君に託したい  君が受け継ぐ、彼女の血を持って  彼女の夢を、幸せを夢見た彼女の願いを……君の手で叶えてやってはくれまいか」 そう言って、あの時叔父夫婦に頭を下げた様に静かに彼は頭を下げた 『私の夢を引きずらないで、自分の道を歩んで』 お母さんは、そう言った 初め私はその言葉を、自分の辛かった道を歩ませたく無いからだと思っていた だけど、それは違う。今は、違うと思っている私がいる。その言葉の裏側には、自分の持っていた夢や希望が未だ残っているのが見えるからだ 若し、綺麗に何も残っていないなら『自分の幸せを見つけて』と、きっと言っている そんな人だったから お母さんの様々な感情が私の心に流れ込んでくる 喜び、希望、悲しみ、絶望… いや、それは幻想だったのかもしれない 私が幼き日に感じた母の姿を想い、自分の想いを重ねた想像の産物だったのかも知れない だが、何故かそれを母の想いだと思った 私はそう感じたのだ 私の心と、お母さんの心が重なった様な気がして 又、私の頬を涙が伝って行く 今度は1粒では無く、幾重にも幾重にも重なって。お母さんの…私の溢れる想いを映す様に 「は…い……。…は………い…………」 私は、頭を下げる社長に向かって、唯、頷き続ける事だけしか出来なかった ■ 何とかアイドルの方も、少しづつでは有るがランクを徐々に上げていけた その度に嬉しそうにする私を見て、社長も目を細めて喜んでくれる 最も、彼の場合は私にもう一つの姿を重ねて見ていたのかも知れないが こんな、アイドルと大学生活の2足の草鞋を、忙しくこなしていた或る日 3曲目の新曲発表の席で、忘れたくても忘れられない『3つ目の切欠』が私の元に舞い降りる プレスの中に、ある悪徳記者が居た ゴシップネタで糧を得る、誰にとっても煙たい存在 その悪徳記者が、下卑た薄笑いを浮かべ「あの人の娘さん…ですよね?」と私に声を掛けて来たのだ。皆の居る中で平然と 彼の言葉に、私の心が一瞬真っ白になる そして、奥底から一気に押し寄せ爆発的に吹き上がる感情 ――――― 怒りだ 水が入ったままのコップを掴むと、無造作に悪徳記者にその水を浴びせコップを投げつける 突然の事に何が起こったか判らないまま、ポカンとした表情を浮かべるその男 次いで、バァン!とテーブルを両手で叩くと、揺れて倒れるマイク だが、そんな事は気にも留めず一気に私は言い放った 「私の事は何を言っても構わない。私の事だから  でも…でも、あの2人の事を悪く言うのは、絶対に許せない!  貴方に、お父さんとお母さんの何が判ってるって言うの!? あの2人の何を知っているって言うの!?  あの2人が真剣に愛し合って生まれたのがこの私なのよ!?  それを貴方に、そんな下衆な貴方に馬鹿にされる理由は無いわ! ふざけないでっ!!」 呆然とする皆を残し、さっさと私は会場を去る どうしても、あの男の言葉が許せなかった。本当に、心の底から悔しかったから どうやって控え室まで戻ったか覚えていない が、戻った時に、社長が複雑そうな表情をしながらも静かに頷いてくれた 彼の頷きを見て、私は声を上げてまるで子供の様に泣いた 大事な…とても大事な、心の何かを踏みにじられ傷つけられた痛みに絶え切れず 気が付くと、そんな私を優しくそっと社長が包んでくれていた 唯、何も言わずに黙って、私の流す涙が途切れるまで 「落ち着いたかね…」 沈んでいる私に、社長が穏やかに声を掛けてくれる。黙って頷く私 「私の立場からすれば、本当はあれを止めねばいかんのだろう。だが…」 そこで言葉を切る社長を、私は黙ったまま見つめた 「…君の気持ちは、痛い程判ったからな」 少し、自嘲気味の笑顔が彼の顔に浮かんでいる 「しかし、その理由を知っているのは、間違いなく私と君の2人だけだろう  恐らく事実無根の丁稚上げで騒ぎ立てて、暫くは活動を控えねばならない可能性が高いだろう。相手が、かなりまずかったしな  場合によっては世間の注目を浴びれば、もっと長い期間も考えられる  人の記憶から、完全に消えるのは難しい事だからね…」 流石に、社長にも少し沈みがちな表情が浮かぶ 『自分の道を歩んで…貴女自身の道を…』 不意に、お母さんの声が聞こえた気がした 『貴女には、まだまだ道が有るわ…。貴女が私の夢を継ごうとしてくれた様に…貴女を見て夢を描く子達が居る事も忘れないで…』 それだけ…たった、それだけだったけれど だけど、その声が何を言いたかったのか私は悟った 「…お手伝いさせて下さい」 「え?」 私の言葉の真意が見えず、聞き返す 「社長のお手伝いをさせて下さい」 「……それは…どう言う意味かね?」 「私は、きっとこれで終りなのかも知れません  だけど、私には未だ出来る事が有るんです。社長の下に現れる、夢を見てその夢を叶えられる子…その子達の応援をさせて下さい」 「音無君…」 「私は、その夢がどんな物か知る事が出来ました。お母さんと社長に教えて貰って  だから、私はその夢見る子達の応援をしてあげたいんです  人に託せ、想いを繋げていける、その素敵な夢を見る事が出来る子達の…」 私の瞳を黙って見ていた社長が言う 「そっくりだな…、彼と一緒になりたいと言った、あの時の彼女の瞳に」 「え?」 「間違い無く、君は彼女の子供だという事だよ」 そう言って、社長は優しそうな顔で笑った 「…それで良いのだね?」 「はい。唯…」 今度は私がそこで言葉を切ると、社長が再び見つめる 「若し、許して貰えるのならですが…」 「何だね? 遠慮せずに、言ってくれたまえ」 「はい。今度は、私自身で夢を追おうと思います」 「…どう言う事だね?」 「私は、社長に育てて貰って、いっぱい暖かい思い出を貰って来ました  だけど代わりに、お母さんとの色々な思い出を置いて来てしまったんです。あの笑顔以外は  でも、それじゃいけないんだって  どんな思い出も、全てお母さんとの思い出なんだって  だから、私が生まれる前に芸能界に散らばってしまったお母さんの欠片、記憶の奥に仕舞い込んでしまったお母さんとの思い出  ユックリだけど、少しずつでいいから、この手で私自身の手で拾い集めて行こう、思い出して行こう…って」 「…」 「それが集まった時…初めて私は自分の『その夢』を追いかけれると思うから」 社長は目を細めて、又、優しそうな笑顔を浮かべて私を見ていた 「…判った。君の申し出、受けよう。 但し、最後に私から…一つだけ約束させてくれ」 「?」 何だろう?と思う私に、社長の言葉が続く 「君自身のその夢、何時か必ず叶える事。喩えどんなに時間が掛かろうともだ  その夢は、君自身の物だけでは無い。君と、君の母と……そして、私の夢でも有るのだから。いいかね?」 「あ…」 そう言ってくれた社長の顔からは、何時までもあの優しい笑顔は消えなかった ただ、私の視界は再び滲んでしまって、それは確かめる事が出来なかったけれども ■ あれから何年経ったかなぁ… ついこの前の様な気もするし、やっぱり昔の様な気もする だって、月日が経つのは、本当に早いから 最も、誕生日を向かえる毎に、自分の年齢を否応無く再認識させられチョッとへこむけど でも、最近私は思う 本当に、社長の許に来て良かったって 次々と夢を叶えてくれそうな子達が来てくれて、その子達をドンドン育ててくれる人が来てくれて 確実に、夢を見せて貰える日が近づいているのが判る だから、私も精一杯応援しなくちゃ 一足先に、夢を叶えてくれる子達の為に 何時か必ず自分で、再び夢を目指す時が来るまで その『3っつの想い』が託された、私の夢を叶えるまで 私は、皆を応援して続けて行くんだ…って