「ふふ…、社長…貴方では、無理です。 その高みに達する事が出来るのは、この私しか居ないのだから」 2人に見つかった哀愁漂う高木の後ろ姿をブラインドの隙間から見つめ、小声で有りながら自信に満ち溢れた表情で小鳥が言い放つ では今迄敗北の数々を重ね続けたお前さんは、一体何者なんだよ?と一つ目の突っ込みは置いておいて 「来たのね、又…。私の心の友が。神様からの天啓、『時間のエアポケット』!」 我に返って、てきぱきとスケジュールの確認を始める 彼女達の予定、社長はさっき年始挨拶に行った。プロデューサーさんも小一時間程出なきゃいけない用事。うん、GJ! だけど本当はチョッと残念かな。 プロデューサーさんにだけは見て欲しかったから。いや、逆に見て欲しいの、私の全てを。 だって…貴方になら…小鳥見られても平気だもん。イヤン♪ …止めトコ。まだ、勝負に行ける程攻略出来てないし。 又、妄想モードに片足を突っ込み始めていた事に気が付き、慌てて次に進む 控えしは勝負の命運を決める最重要項目。小鳥にとっては命を削ってもいいチェックだ 扉、ロッカー、机の下、掃除用具入れ、窓の外、床、天井、戸棚の中、シャワールーム、洗濯機+乾燥機、W-Lock、そしてこの前の、まさかまさかの借り扉。 …フッ、隙など何処に有るって仰るの? この鉄壁のガードに 難攻不落の要塞を落とせるものなら落として見よ、と謂わんばかりに不適な笑みを浮かべる 不意に拳を握りしめて、小鳥が台詞を紡ぎ出した 「この世に生を受けて、人生、苦節二十とチョメチョメ。 本当に長かった…本当に…。  でも、この苦難も今日で終り。 皆さんの暖かい応援が、この私を…私を、勝利へと飛翔させてくれるの!」 プルプルと震えるコブシに、少し頭痛を覚えるのは気のせいだろうか 「さあ、翔ぶのよ! ゴージャス小鳥! 貴女は皆の夢を叶える幸せの鳥なのだから!」 もう、突っ込む所以外を探す方が難しい台詞を当たり前の様に言い切られては、掛ける言葉なぞ初めから有る訳が無い 「目の前に見えるわ、勝利の2文字! 舞え美しく!第十一回小鳥祭り!」 一曲目は、「私はアイドル♪」からだ 『絶対イヤですっ!』と頑なに、人前で歌う事を拒み続ける彼女 だが、それは実に溜息を付きたくなる残念さなのだ ビジュアルはVi系の美希や伊織に劣る物では無いし、スタイルはあずさと比べても何ら遜色は無い。おまけに歌はあの千早のお墨付き 流石にDaは、真クラスとまでは行かないが、それでも十分及第点だ おまけに、アイドルの彼女達には出し得ない彼女特有の強力な武器が有る ―――― 言うまでも無い、大人の艶だ あずさが肉薄はしている物の、それでも彼女には及ばない ここまで、十分過ぎる程にアイドルをやれる物は持っているのに…それでも小鳥は頑なに拒むのだ 本当に勿体無い話だと思う ただ、その二十チョメチョメが若さにどれだけ陰を落としているかは定かでは無いが 「女なら 耐え・られますぅ・強いから〜♪」 4曲目の「THE IDOLM@STER」を歌い終え、静かな立ち振る舞いでCDをケースに仕舞い込むと、笑顔の小鳥の目尻に薄っすらと涙が光る 「皆…有難う…。 皆さんのお陰で、私は終にこの高みに辿り着けました…。  でも…私はこれで皆さんとサヨナラしなくちゃいけないんです。 だけど、皆さんから貰ったこの沢山の思い出…私は一生忘れません!」 わっと沸き起こる、喝采と賞賛の嵐 小鳥の胸に、それが深く染み込んで行く …………ちょっと待て。拍手? 「ふぇー、こ、小鳥さん、カッコイイですぅ…」 「うっう〜、やっぱり小鳥さん歌上手じゃないですか〜」 「何言ってるの、やよい。小鳥さんは昔アイドルなの、当たり前なの」 「いやー、だけどあの振りカッコ良かったなー。 あの、小鳥さん今度ボクにも、その振り付けを…」 首が少し嫌な軋み音を立てながら、声が聞こえた方を向く 彼女達全員が、事務所に居る 皆、驚いた様な楽しそうな顔をして 「な!? ど、ど、ど、ど、ど、ど、どーして皆、こ、こ、こに、い居るの!?」 まるで信じられないと言った表情で、小鳥が全員の姿を見る 「あら? だって今日は、全員が『突撃!アイドル・インタビュー!』の収録じゃない」 伊織が答える 「え、ええ…」 「それなら、765プロでの普段の風景も入れようかって、最後のパートは事務所でやる事になったでしょ?」 「はぇ?」 「…この、馬鹿プロデューサー! あんた、又、連絡忘れたの!?」 「ち、違うって。 ボードにキチンと書いといたよ、ホラ」 彼女達の後ろからのそりと現れ、彼が行事予定を指差す 今日の欄の下方に変更とだけ書かれた文字 ……あのね、プロデューサーさん。それじゃ何か判りませんってば。っつーか省略し過ぎだっつーの って、何時の間にかこの人まで戻ってるし… 気を取り直して続ける 「そ、それよりも、どうやって入ったんですか? 入り口のロックは内側から廻せない様にしてるのに…」 今度はPが答えた 「ああ、その事なら  明日位から、隣に店広げられる状態になったって言ってたじゃないですか。  改装業者さんの向こうの仕事も粗方終りで、今度は俺達が向こう移ったらこっちを少し弄るって。  だから、改装業者さんが間仕切りの一部簡単に外せる様にしてくれたらしいですよ、移動し易い様に  いや、助かりましたよ  この前、伊織は借り扉から入ったらしいですが、今度は閉まってるし…。困ってたら『ここから行けますよ』って教えてくれて」 「ほらほら、ピヨちゃん! 亜美と真美でも簡単に外せるよーん!」 「こら! ダメだろ2人とも。 簡単に外せるっていっても、気を付けなきゃ。危ないぞ?」 「「はーい」」 や・ら・れ・た・♪ だから、それも違うでしょって。だって、皆何もしてないもん。又、私が転んじゃっただけなんだもん。 エヘヘ、小鳥泣かないんだから。……クスン。 しかし、終に、この封印を解く日が来るとは思っても見なかったわ。『絶対泣かすリスト』 まずは業者さんの名前。理由は、えーっと…『小さな親切、大きなお世話』…っと 「ああ、合言葉は、録音・済、携(ry」 「いや。 もうそれ不要ですから。どうせ始めっから見てらしたんですよね?」 「んー…始めっからかどうかは判りませんが、確か『時間のエアポケット』ってトコからだったと…どうしたんですか、小鳥さん?」 ふっ…。 相変わらず、私の心の中は隙間風の散歩道なのね… 「人前じゃ、ぜーったい歌いませんよ?」 「えー? だけど、やっぱり勿体無いですよ。それって」 「誰が、何と言ってもダメです」 「そうですか。 仕方ないなあ…、じゃあ小鳥さんの勇姿は収録の中だけで我慢するとしますか」 「…は?」 今度はPの後ろから、ファインダ越しに小鳥の姿を見つめているカメラさんが現れた しかも、口元は笑って片手を愛嬌よく振りながら ちょ、ちょっと! な、何でカメラさんが居るの!? ………あ、しまった。収録の最後ココで言ってたっけ…。って言う事は… 「ちょ、それって…」 Pとカメラさんがハッキリと頷く 「きゃぁああああ! と、撮られたぁあああ!! 撮られちゃったのぉぉぉおおお!!!  う、うう…お、お嫁に…お嫁に行けないわ…グス…グス…、ふぇ…ふぇええぇええんん…」 「いや、そんな大げさな」 苦笑いするP 「大体そんなに素敵なんですから、小鳥さんなら、黙っててもすぐ見つかりますよ。お婿さん候補」 床にペタンと座り込んでガックリしている小鳥に、少し困った笑顔で話掛ける この、ニブチン ならこの場で今直ぐ候補になって下さい。おながいします。 職人の匠の技の前に、最早掛ける言葉も無く無残に崩れ去った、第十一回小鳥祭り 尚も床に座り込んだまま、殆ど放心状態の様な小鳥 「ほ、ほら小鳥さん。元気出して下さい。社長、もう少ししたら戻ってくるじゃないですか、さあ」 プロデューサーさん、社長と私、どっちが勝つのが先かしら?と思いつつ さっきの言葉は訂正します。候補じゃ無くて、そのもので。そうしたら、きっと私の心に隙間風は吹かなくなるから… と切に思う小鳥だった ちなみに、収録フィルムを見たタ●リさんから お昼の番組の出演オファーが多くなったのは、こことは又別のお話。 偉大なコンビニPに、心より最敬礼